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実績紹介

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011. ZEBを目指した個別分散型空調システムの設計課題に関する調査

本調査は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「脱炭素社会実現に向けた省エネルギー技術の研究開発・社会実装促進プログラム/ZEBを目指した個別分散型空調システムの設計課題に関する調査」における成果です。

概要

非住宅建築物のZEB達成には、エネルギー消費割合の高い空調の省エネが重要です。昨今、メーカーの目覚ましい技術開発もあり、建物規模を問わずビル用マルチパッケージ型空調システム(以下、ビルマル)の採用例が多くなっています。

竣工後の建物において、ビルマルの運転状態を把握することは難しく、設計者が竣工後にビルマルが設計意図通りに動作しているか確認するのが困難です。このため、ビルマルの機器性能を最大限発揮する設計法が確立していません。

本調査は、実態調査に基づく課題の整理、評価モデルを用いた課題の解決策の検討を経て、ビルマルの合理的(在室者の快適性を損なうことなく、より少ないエネルギー消費量で空調する方法)な設計法をまとめたガイドラインの策定を目的とします。

調査のフローを図1に示します。

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図1 調査フロー:ZEBを目指した個別分散型空調システムの設計課題に関する調査
図1 調査フロー:ZEBを目指した個別分散型空調システムの設計課題に関する調査

主な調査内容

実態調査

設備容量と室用途の関係の把握調査

2018~2020年度に建築部省エネ法における「標準入力法」で届出されたデータを分析し、設備容量と室用途の関係を調査しました(国土交通省国土技術政策総合研究所 宮田委員の分析結果)。

下記の室外機を調査対象にしました。

  • 地域: 6地域
  • 主たる建物用途: 事務所等
  • 空調設備: パッケージエアコンディショナ(空冷式)
  • 室外機系統: 事務室の室負荷と外気負荷の両方を処理

床面積あたりの室外機の定格冷房能力の分布を図2に示します。床面積あたりの室外機の定格冷房能力は、200±150 W/m2と400±50 W/m2の2山に分かれますが、200±150 W/m2の方が件数が多いです。全体として、非常に広い範囲に分布しています。

図2 床面積あたりの室外機の定格冷房能力の分布
図2 床面積あたりの室外機の定格冷房能力の分布

設備容量等に係る設計法の調査

ビルマルの設計法の実態を把握するために、16社の空調設備設計実務者に対し、ヒアリングを実施しました。

最大熱負荷計算時の事務室の内部発熱想定値について伺ったところ、テナントビルに比べて自社ビルでは室使用条件が明確な場合が多いため、内部発熱の想定を小さくしているケースが多いです。

さらに、ZEB建物では、コンセント発熱を極限まで小さくし、照明発熱については照明制御も考慮しているとの回答もありました。設計者は、ZEB建物を設計する際に、設備容量が極力小さくなるようにしているようです。

事務室の内部発熱(コンセント発熱、照明発熱)想定値のヒアリング結果を表1に示します。

表1 事務室の内部発熱想定値のヒアリング結果
対象建物 コンセント発熱 照明発熱
テナントビル 18~36 W/m2 5~20 W/m2
自社ビル 5~30 W/m2 10~15 W/m2
ZEB建物 極限まで小さく 10 W/m2以下。照明制御も考慮

稼働実態調査による課題の把握

各室外機の冷房COP比(冷房期間COP/冷房定格COP)と暖房COP比(暖房期間COP/暖房定格COP)の関係を図3に示します。全体的に、冷房に比べて暖房の方が定格効率に対して期間効率が低くなる傾向にあります。

非住宅建築物の場合、冷房の需要が大きいため冷房需要側からビルマルの機器能力選定を行っており、暖房にとっては設備能力が過剰になっているのも要因の1つです。

図3 冷房COP比(冷房期間COP/冷房定格COP)と暖房COP比(暖房期間COP/暖房定格COP)の関係
図3 冷房COP比(冷房期間COP/冷房定格COP)と
暖房COP比(暖房期間COP/暖房定格COP)の関係
※1台の室外機が1プロット

解決策の検討

評価モデルの構築

工学院大学富樫研究室で構築しているビルマルの評価モデルをもとに、実験室で取得した実験データを用いて、評価モデルの精度を検証しました。

種々の境界条件で効率試験を行いました。消費電力の効率試験における実測値と、計算モデルによるシミュレーション予測値との関係を図4に示します。図4のグラフ中の数値は、実験条件(室内外温度や室内機ごとの負荷を振った条件)を表しています。

図4にあるように、冷房、暖房ともにシミュレーション予測値が実測値をよく再現しているのがわかります。

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図3 冷房COP比(冷房期間COP/冷房定格COP)と暖房COP比(暖房期間COP/暖房定格COP)の関係
図4 消費電力の実測値とシミュレーション予測値との関係(左:冷房、右:暖房)
※グラフ中の数値は実験条件(室内外温度や室内機ごとの負荷を振った条件)を表す。詳細は下記の報告書を参照。

モデル建物を用いたケーススタディ

この評価モデルを用いて、ビルマルの設計ガイドラインを作成するうえで重要そうな条件について、583 m2の事務室と会議室を有する基準階モデル建物を対象に、ケーススタディを実施しました。

ZEB Readyを実現する条件を基準ケースとして、設計の工夫を1つずつ取り除くケーススタディです。ケース1は低外皮性能とした場合、ケース2は全熱交換器なしとした場合、ケース3は設計時の内部発熱量を大きく見積もった場合を想定しました。各ケース条件の詳細は、下記の「報告書閲覧」から報告書全文をご参照ください。

各ケースのケーススタディ結果の概要は以下の通りです。

  • ケース1(低外皮性能):外皮性能を低くした場合は、基準ケースとCOPは変わりませんが、冷暖房熱負荷が増加するため、年間消費電力が1.3倍になりました。
  • ケース2(全熱交換器なし):全熱交換器を採用しない場合は、ビルマルの消費電力の削減分と全熱交換器の消費電力増加分が相殺し、全熱交換器なしの方がやや増エネになりました。
  • ケース3(過大設計):設計時の内部発熱量を大きく見積もった場合は、低負荷での運転が増えて期間COPが低下することから、ビルマルの消費電力が1.3倍になりました。
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図5 各ケースの年間消費電力、平均COPの比較
図5 各ケースの年間消費電力、平均COPの比較

ZEB Ready達成を目指すための個別分散空調システムの設計法ガイドライン

実態調査に基づく課題の整理、評価モデルを用いた課題の解決策の検討を経て、ビルマルの設計法ガイドラインを作成しました。このガイドラインでは、建物用途は温暖地の事務所、空調設備は冷暖切替型のビルマルを対象としました。ただし、基本的な部分については、他の気候地域や用途、冷暖房同時型のビルマルでも活用できるものを目指しました。

設計ガイドラインで示した、個別分散空調システムのZEB Ready達成のポイントを表2に示します。計画編、設計編、運用編の3部構成になっています。ガイドライン全文は、下記の「報告書閲覧」からダウンロードできます。

表2-1 個別分散空調システムのZEB Ready達成のポイント一覧(計画編)
ZEB Ready達成のポイント 「ビル用マルチのZEB達成のポイント」との関係
◎:該当、〇:一部該当
大分類 中分類 ポイント (1)年間処理熱量低減 (2)低負荷運転を避ける (3)冷媒制御の適正化
計画編 外皮性能の向上 建物の外皮(窓、外壁、屋根等)からの熱取得、熱損失をできるだけ減らす
外気処理方法の選択 全熱交換器の採用 全熱交換器とともにバイパス制御を採用する(ファン動力の増加に注意)
外気処理系統の系統分け 外気負荷と室内負荷を別々に処理する場合は、外気処理用と内部負荷処理用の室内機は別の室外機系統とする
外気負荷低減対策の採用 外気冷房制御などの外気負荷低減対策、CO2濃度制御、人体検知制御などの外気量制御の採用を検討する

表2-2 個別分散空調システムのZEB Ready達成のポイント一覧(設計編)
ZEB Ready達成のポイント 「ビル用マルチのZEB達成のポイント」との関係
◎:該当、〇:一部該当
大分類 中分類 ポイント (1)年間処理熱量低減 (2)低負荷運転を避ける (3)冷媒制御の適正化
設計編 最大熱負荷計算時の留意点 コンセント発熱の想定値 実際の機器または運用実績に基づいた発熱量とする(5~12 W/m2程度)
照明発熱の想定値 適切な設計照度とし、照明制御も考慮した上で、実際の照明機器を想定した発熱量とする(5~10 W/m2程度)
人員密度、外気導入量の想定値 実際の在室人員に応じた人員密度とし、適切な外気導入量を設定する
想定する余裕係数 余裕係数の意味を勘案し、要・不要を判断する(設計の工夫で対応することが理想)
室内機選定時の留意点 室内機能力の選定 室内機能力を絞りすぎないようにし、小さい容量(7~14 kW程度)を複数配置する
室内機タイプの選定 ファン動力が大きくなりすぎないものを選定する(天井カセット型はファン動力が小さい)
室温センサの選定 室内機が適切に運転できるように、室内温度が正しく検知できるように注意する
室外機系統設計時の留意点 室外機系統内の室内機の運転条件(方位、室用途等)をできるだけ統一する
室外機能力選定時の留意点 室外機能力の選定 室外機系統全体のピーク時の負荷から室外機能力を選定する
配管長・高低差による能力の補正 必ず対象機種のメーカー技術資料で補正係数を確認する
テナントビルへの対応 ベース計画とオプション計画の2段階で設備容量を設定できるように工夫する
室外機の設置場所 冷媒の配管長や高低差が長くなりすぎないようにし、室外機の設置間隔に注意する

表2-3 個別分散空調システムのZEB Ready達成のポイント一覧(運用編)
ZEB Ready達成のポイント 「ビル用マルチのZEB達成のポイント」との関係
◎:該当、〇:一部該当
大分類 中分類 ポイント (1)年間処理熱量低減 (2)低負荷運転を避ける (3)冷媒制御の適正化
運用編 運用時の留意点 室内機の設定温度 室内機の設定温度を極端に低くしたり、高くしたりしないようにする
室内機の運転時間 消し忘れがないように注意し、同一系統内で室内機1台だけ運転するなどの低負荷での運転を避ける
外気処理ユニットの運転状況 在室人員不在時に外気処理ユニットを運転していないか、設定温度が適切か確認する
室内機のルーバーの設定 暖房時に室内機のルーバーが水平吹き出しの設定になっていないか注意する(天井カセット型の場合)
稼働実態把握の重要性 実稼働データの入手方法 室外機、室内機の実態把握に必要なデータを計測サービス等により入手する
稼働データ確認のポイント 想定した通りに運転できているか、無駄な運転をしていないか、効率の悪い運転をしていないか把握する

報告書閲覧

成果報告書

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設計法ガイドライン

※このガイドラインの内容は、自由に引用・転載いただくことができます。
ただし、転載の際は出典として本ガイドラインの名称(個別分散型空調システム設計法検討委員会:個別分散空調システムの設計法ガイドライン、2022年6月)を明記してください。

関連するウェブサイト

成果報告書は下記のNEDOのウェブサイトでも公開しております。

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